折紙の森


2006年10
15日 今日は折紙山登頂の実効日である、早朝5時の起床、深夜降り続いた、雨はどうやら止むでいるらしい、

窓を開けると、薄明かりの中、天候は回復し、乾いた心地よい風がひんやりと吹き抜ける、台所で かみさん が「おにぎ

り」を握っている間私は登頂に向けた準備の最終チエックである、


今回の折紙山へ思いは、山頂への登頂とは別に、重要な目的がありました、国土地理院の地形図を眺めると、1991年以降、

突然印された上北鉱山近辺の、沢山の林道、今回目的の折紙山にも、大きな林道がそこに、突如として出現していました


1991928日 折紙の森は、いまだ経験したことの無い、記録的な暴風雨で悲鳴を上げていました、九州北部をかすめた大

型の台風は一度日本海へ抜け、この海上でさらに勢力を発達させ、青森へ再上陸、
風速53.9mで青森全土に吹き抜けたこの台

風は、収穫前のリンゴに大被害をもたらしたことは記憶に新しい事と思います、

その数日後、私は青森の実家が心配で帰省しました、真っ直ぐに立っている電信柱が一つも無いのに驚きました、上北鉱山の

様子も気になり、鉱山にも探索に行ってきました、高森山のブナ林が壊滅状態、頂上のシンボルだった、114と見える山頂の古

木が吹き飛んでしまい、とても残念に思いました。この台風で倒壊したブナの大木は、想像以上の数字だったと思います、そ

の倒木ブナを回収する為の、多くの林道が仮設的に作られ大規模な伐採作業が、数年続いたと思われます、


自然林の中に、人為的な道が作られると、その林道に沿って山肌が露出します、削り取られた土砂は、翌春、雪解け水に押さ

れ、河川に流れ込みます、下流域に影響を与えないように砂防ダムが作られ、これまでの自然の景観が著しく変貌してしまい

ます、その結果、河川は分断され、雪解け水に押され河川に流れ込んだ大量の土砂は、渓流の地下水を埋め尽くし、イワナの

住めない一本川となって、イワナ好みのゴロ場を失ってしまいます、折紙山を源流とする、金ガ沢のイワナは、父と私で、上

流部へ放流、放流を重ねて、すばらしいイワナ天国に育て来ました、30年の年月をかけて育てた川が今、この人的自然破壊に

よって、かつての岩魚の天国が消えてしまいそうです


イワナを繰り返し放流する意義は、イワナが登って行けない魚止めの大滝の上流へイワナの種を運び、イワナの新しい生活圏を

提供する事にあります、その場所が遠くであれば釣り人も、少なくなるし、さえぎる滝が大きいほど。進路を阻み、イワナの生

活圏が保護されることになります、近年この川で、余りにも困難な大きな滝に出くわし、放流を断念した経験があり、この大滝

の上流にいつかイワナの種をと願っていました


折紙山の所在地は、青森市天間林村、標高920.6m、登山道が全く無いため、残雪期の硬く締まった雪上を、みちのく道路料金所から登る

のが一般的な登頂手段である、しかしながら、山頂までの距離は約6km標高差750mの雪道を、かんカンジキを履いての登坂となるとかな

りの体力気力が要求される、


頂ルートは

野内川から、3箇所
 1 下折紙沢を経て上松崎沢添えに付けられた林道を料利用する方法
 2 みちのく道路料金所から唐川沢の沢添えに林道を利用する方法
 3 野内川を更に登ったみちのく道路トンネル入口付近から入る戸違沢からの林道を利用する方法

大坪川から3箇所
 4 金ガ沢沢添えに作られた890mポイントに達する林道を利用する方法
 5 金ガ沢を沢登りして、いっきに登り詰める方法
 6 金ガ沢の左の尾根に添って付けられた林道を利用する方法

しかしながら、どれをとっても、山頂まで続く林道は無く、全ての林道は山頂500m手前でブナ林と熊笹の藪に消えてしまう


今回のルート設定は、ルート4 + ルート5 帰途はルート6 の予定だ、


KOちゃん(義弟)の玄関チャイムで早朝の静けさが、一変した、

この時期手に入らない、岩魚釣り用の餌であるブドウ虫を問屋から調達してくれて

今日は途中まで、同行である、今年は青森も熊騒動で、熊避けの対策は、切実な問題だ

ポケットに用意したのは 笛 それから昨年長崎から取寄せた、爆竹、私は更に最終手段の、「しこみヤス」

2mの棒の先端に仕込まれた、棒状のヤスリの先端は、グラインダーで、鋭敏に研ぎ澄まされ

,20cmの切っ先は一撃で、致命的な打撃を与えるに充分なシロモノだ、

もちろん、こんな物を必要とする事が無いに越したことはないが、災害は忘れた頃にやって来るものだ、

一応私的には、洒落のつもりで携帯した次第である


話が長くなるので、先を急ぎます、

青森を出発し、田代から上北鉱山へ、KOちゃんの転がす軽自動車は、色好きはじめた、ブナの林を、駆け抜ける、

奥の沢から本山、変電所、高森へと懐かしい景観が流れて行き、変電所脇の朽ち果てた「吊り橋」を見て「今年も健在だナ」と理由無き安堵

感に浸る

この時期は、キノコ狩りのシーズンでもあり、早くも数台の車が所々に駐車している

KOちゃんはこれらの車の多い少ないで、キノコの「出」の情報を嗅ぎ分けるらしい。

「まだキノコの出はイマイチだなー」・・・・「どうしてわかった?」聞くと

「いつもは、キノコが出ているこの時期、この辺はあふれんばかりの車の行列になるんだよ!!」 ・・・・「ほぉー」信じられん

大坪台にさしかかると、道幅は極端に狭くなる、軽自動車の窓に、伸びきった雑草の枝が容赦なく両サイドから叩きつけて来る

道は雨上がりの出水で細い道に川のように流れ込み、凸凹道あり、落石あり、・・・・・前方を塞ぐ巨大な大岩、KOちゃんは無言で突き抜け、

車は45度に傾き、ただならぬ異音を車底に感じつつ、目的の金ガ沢河口に無事たどり着く、



金ガ沢河口は堰堤が作られ、景観が一新していた、以前川の右側に付けられたブナ伐採用の林道(金ガ沢沢添えに作られた890mポイント

に達する林道)が、見当たら無い、大きなダンプが走れるほどの林道の形跡が、押し寄せる草木で跡形も消えているのだ、これは予期せぬ

状況である、背丈ほどに成長した育種もの草木を掻き分けると、わずかに踏み後のある一筋の山道が確認でる、とりあえず登り始めるが、

所々に道筋が途切れ、行ったり来たりの暗中模索で今我々はどの地点なのかも把握出来ない状況である、昨日の雨露と流れ出る汗で体中

から湯気が立ち上る、登る事1時間、当初予定の中間点らしき場所にこぎつけ、山道から沢に下ることにする、ドンぴしゃり、予定の中間点

の二股の沢にたどり着き、同行のKOちゃんはキノコ採りの準備ココからはそれぞれ別行動となり、お昼を目どにまたこの場所に落ち合う事

とする、


中間点の二股の沢は、右左、ほぼ同水量、折紙山、山頂に向かって大滝小滝を抱えた、岩魚好みのゴロ場の連続する渓相である、

この中間点が、かつて40年前、この川に最初に岩魚を放流した地点である

放流した岩魚の数は、10匹にも満たない数であったと、父から聞いている、昭和45年頃の話だが、もともと岩魚のいない川と言

う認識もあり、暫く入渓者がなく、
3年後の「金ガ

沢」には、岩魚の子孫がしっかり繁殖してくれていた、その後私は入渓の度に、岩魚の登れない滝上の上流部へ 釣った魚の放流

を繰り返した、行く度に放流した岩魚が着実に定着しているのを実感し、ますます放流意欲に熱がこもった、

平成6年、晩秋、中間点から、左の沢の放流完成を目指して、最上流へと、意気込みも新たに、入渓することになる、

中間地点から釣りながらの2時間の釣行であったが、時1028日、紅葉真っ盛りの中、折紙の恵みを受けて岩魚はもとより、「な

めこ、ボリボリ、カノカ、ムキタケ」背中に背負うリュックは山の幸でズッシリと重みを増していく、

汗だくでたどり着いた魚止めの滝は、今まで見たこともない大滝であった、

20mもあろうかと思われる垂直に落ちる滝、大きな水しぶきをあげて、滝つぼに虹を抱えて落ち込んでいる、

滝の両サイドは切り立った岸壁である、この滝上を目指すとすれば、かなり後退して、岩場を避けた地点から高巻きに山越えしな

ければならない、

ここまで来たからには、何とか滝上に岩魚を放したいと、放流魂が燃え上がる、

数匹の岩魚を抱えて険しい山肌をのぼり始める、背中にはズッシリと重い山の幸、左手に抱える、生きた岩魚のビニール袋、残さ

れた右腕と両足で、尾根に向かう急斜面を木立を頼りに全身の力を振り絞り一歩一歩よじ登る、体中汗だくの悪戦苦闘で頂上の尾

根に登りたどりつくまで
40分以上も費やし、岩魚も私も精魂果てて、放流を断念した苦い経験の日であった、

 


あれから11年の日々が流れ、今この二股の中間点に再び立っている

黄色に衣替えしたブナの森、沢の流れが、冷たい冷気を運び、ひんやりと心地よい風が汗ばんだ体中に抜けてゆく

まずは放流する岩魚を確保しなければ始まらない、身支度をして、第一投の竿を振り込む久しぶりの釣りの楽しみが、期待と興奮

と充実感が折り重なって全身に緊張が走る

身を屈めて竿を振り出す、餌のブドウ虫が流れ、キラキラと輝く水面に見え隠れする

魚信を待つ手が汗ばみ、心臓の鼓動が指先に伝わる

第二投、三投と空振りに終わり、少しずつ焦りと不安がよぎる


1991928日のりんご台風の傷跡

その後営林署が伐採用に仮設した林道工事の人的自然破壊の影響

これらの悪影響で、岩魚好みのゴロ場を失った河川は15年もたった今でも

まったく回復していないのである、

小滝を3基クリヤーしたところで、待望の魚信が竿に伝わってきた

18cm程の小さな岩魚が竿先で踊って、川岸へ寄せると間一髪落ち葉の重なる小さな水溜りに針から外れて右往左往している、4

リットルの大口ペットボトルの中に、取り込み新鮮な水を満たすと、元気良く泳ぎだす、いきなりこんな狭い容器の中に入れられ

て、さぞかしびっくりしたことだろう、

その後もぼちぼちと同サイズの小ぶりの岩魚を5匹程追加したところで大きな滝に直面した、見たこともない滝である、落差10

のこの滝は左右の切り立った岩礁に囲まれ、進路をまったく塞いでいる、しかしこの滝はこれから目指す魚止めの大滝ではない、

記憶をたどると確かにこの場所に大きな滝があったのを思い出したが、以前は傾斜もゆるく右の岩肌から登った経験がある

水の力自然の脅威はまさに凄まじいものである、渓流は生きている、

穏やかな流れをこのような爆発的変貌を遂げる、渓流の大きな力は山(折紙)の怒りなのか、叩きつける水しぶきの中、目を閉じ

て合掌する



右側からの高巻き

この滝を迂回する為、高巻きに30分もかかってしまい、かなりのロスタイムを強いられてしまった、

先を急がなくてはならない、紅葉の時期はキノコの時期と重なるものだ、低地ではまだ色好き始めた紅葉も、ここでは見ごろの時

期を迎えている、鮮やかな景観と共に倒木に噴出したキノコが見事である、しかしそんな誘いを振り切り、今は放流に集中しなけ

ればならない、先を目指すには体力を温存しなければならない、この先どんな難所が待ち構えているか、目指すは魚止めの滝だ

その後大小の岩魚を4匹ほど追加して、小滝の渓流を、小走りで駆け上がる

こんなに長い距離だったかな、少し不安になる、もう上り始めて2時間以上も立っている

時折大口ペットボトルの水を取り替えるが、岩魚の数が増すにつれ、酸素不足で弱りが早くなる

水の取替え回数も小刻みになり、上流へ進むピッチも上がって行く

後ろを振り返ると谷合の稜線が遠くに、うねりながら低地へ隠れて行く

疲労困憊ながら、目的の大滝が見えてきた、

だがまたしても、目を疑った



20m近い落差の魚止めの滝は、滝壺が土砂で埋まり、岩肌が削られて以前の面影は無い

前回初めて遭遇した大滝が、形も落差も、まるで変わっていた

この滝を高巻きするために40分もかけて上ったあの滝を、今右の岩肌からザイル無しで登れるのだ、なんとも拍子抜けた結末だ

が、これはまったく予期せぬ幸運である、無理かと思われた大滝制覇はいとも簡単な結末に終止符を打つこととなった

初めて見る滝上は岩場の連続する階段状の渓相である、さらに登ること15分川は二つに分かれていた、左の沢を5分ほど上ったと

ころで、放流することにする



4リットルの大口ペットボトルの中には弱りきった岩魚

すでに数匹は仰向けに白い腹を見せて限界状態、急がなければならない、早々に穏やかな深みに放流するが

皆元気がない、はじめは川底に留まりじっと動こうとしなかったが、次第に元気になり11匹その姿を消してゆく、念願の源頭

放流を達成した瞬間である



ここからさらに上流へ進めば300mほどで「折紙山」山頂である、山頂への挑戦はまた次回とあきらめ、当初の目的を一つ達成し

たことに満足して、下山することにした、

山の幸「ボリボリ」少しいただいて帰ります・・・・




最後まで、読んで頂いた方、誠に感謝いたします

平成19824日 記    MILK